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書評

安藤忠雄ほか著『「建築学」の教科書』

彰国社2003.6.刊行

共同通信200306提出

(静岡新聞6.22.その他に掲載)

 

 日本の建築は世界一流だと言われる中で、どうして日本の都市は美しいとも住みやすいとも言われないのだろうか。経済的には高度成長を遂げた日本社会にあって、都市計画に誇りをもつ人はあまり多くない。

なるほど札幌市のように、計画的に作られた都市もある。ところが最近になって札幌駅には、まるで官庁のシンボルのような駅ビル(JRタワー)が建てられてしまい、それはいかにも北海道の公共事業依存体質を反映しているようなのだ。この駅を利用している私としては、ちょっと恥ずかしい気持ちになる。

 戦後日本の都市の貧弱さは、建築に対する私たちの関心のなさにも責任があるのだろう。人々がもっと建築について語り、もっと貪欲(どんよく)な想像力をもって都市計画を考えるならば、やがて都市は美しくなっていくにちがいない。

本書は、そうした関心から建築について考えるための、格好の入門書であるだろう。建築家や環境学者などの多彩な執筆人が、建築にまつわる様々な話題を繰り広げる。中でも読み応えがあるのは、安藤忠雄氏が自身の青春を回顧したエッセイ「揺れ動く心」。海外の建築を見て回ることから独学で建築家を志した氏の青春時代は、刺激に満ちた一つのドラマだ。

振り返れば戦後の日本人は、「アメリカに追いつけ追い越せ」という至上命令によって、誤った住宅政策に導かれてきたのであろう。本書の中で西澤英和氏は、アメリカで「住宅の耐用年数」を尋ねたところ、「耐久年数って何ですか」と逆に聞き返されて、かなりショックを受けたと述べている。アメリカでは寿命の短い住宅文化など存在しないというのである。

ところが日本では、いまでも年間百万戸の新築住宅が供給され、使い捨て同様の感覚で消費されている。また画一化と低コスト化によって環境は汚染され、職人気質の熟練工が不足しているのが現状だ。いま必要なのは、私たちが職人の技に関心を寄せ、耐久性の高い建築文化を育てていくことではないだろうか。

 

橋本努(北海道大助教授)